10月より彫刻科に着任して約3ヶ月が経ちました。昨年の春から卒業?修了制作に取り組んできた学生とはイレギュラーなタイミングでの顔合わせとなりましたが、今年度も終盤になり年末年始の追い込みで作品の精度が上がっていくのを日々見ながらアトリエを回っています。
また1年生と2年生の石彫実習では、慣れない道具や技法を新鮮に吸収して短期間のうちに彫り進める姿に、着任早々集中力の高さを感じ入りました。
赴任にあたり、私は広島市から大型のトラック数台を使い石材や制作環境一式を移転してきました。その中には10年以上前に制作を始めた重さが1.7トンの大理石の作品があります。この作品は2011年に神奈川県のアトリエでつくり始めて、本学の非常勤講師だった時期には陳列館での展示に出品をし、その後も神奈川のアトリエから3年半を過ごした広島、そして今回の東京へと制作場所を移転するたび身近に置き、総距離約2000kmを移動しながら少しずつ手を入れ続けてきたものです。
学生時代、私は春休みや夏休みの前後になると、制作途中の作品をトラックで上野や取手校地から自身のアトリエへ運ぶことを繰り返していました。アルバイトや怠け癖のために制作が進まず、わざわざ持ち帰ったのが無駄になることも少なくありませんでしたが少しでも進展を期待して、長期休みに入るたびに時には1t以上ある作品を運んでいました。今回の移転をきっかけに振り返ると、そうした非効率的な生活は本学で彫刻を学び始めて25年近くが経った今でもほとんど変わっていないことに気づきました。
作品制作には効率とは違った時間が流れています。展覧会や納期といった現実的な期日は作家を続ける限り当然ついて回りますし、大学でも講評や提出期限があります。しかしそういった現実的な流れの外側にある、一見無駄に見える時間の積み重ねの中から思考や感情の深まりが生まれ、作者と作品の関係性へと映し出されてくるように思います。
効率性が重視される現代、社会が変化していく中で石彫を本格的に学ぶ事が出来る大学は年々減少をしています。しかし、石などの古い素材に触れ扱う経験は、効率や合理性とは違った時間、そしてそこから生まれる様々な事象を引き受けるのに適した機会となると考えています。
本学で共に制作?研究する学生のみなさんとはそういったもののあり方を大切にしていけたらと思います。
写真(上):上野校地の石彫作品置き場
【プロフィール】
今野健太
東京藝術大学 美術学部彫刻科准教授
1980年東京都生まれ。2009年東京藝術大学大学院博士後期課程美術専攻修了。
石彫による人体彫刻を制作し、近年は石の永続性と異素材の循環性に着目し表現の幅を広げている。
主な展示に、広島芸術センター(広島 2022)、HARMAS GALLERY(東京 2020, 19, 14)、日本橋髙島屋美術画廊X(東京 2017, 14)、現代HEIGHTSgalleryDEN(東京 2012, 07)での個展や、「間 そうぞうのよはく」graf porch(大阪 2023)、つくばアートサイクルプロ ジェクト2021-2022「アントロポセン -分岐点を超えた景色-」(茨城 2022)、「彫刻 - 気概と意外」東京芸術大学大学美術館陳列館 (東京 2016)、「行為の触覚 反復の思考」 上野の森美術館(東京 2012)等のグループ展への参加がある。